あの日の一品:カウンターの魔法

まだ僕が自分の店を持つ前の修業時代の話です。
その店にはいつもカウンター席をご指定される初老の紳士がいらっしゃいました。
カウンターに座っても料理人の僕らにいろいろと話しかけてくるでもなく、どちらかというと物静かな方でした。
いつもカウンターを指定されるので、それなりの理由があるとは思っていたのですが、ある時ポツリとこうおっしゃいました。
「料理は料理人の手を離れれば離れるほど美味しさが減っていく。だからカウンターが一番うまい料理を食べられる特等席なんや」
その時に初めて僕は料理の美味しさというのが、表面的なモノの価値ではないことに気づきました。
言われてみればおっしゃる通りで、鮨屋でもテーブルに運ばれてきた鮨よりも、職人が目の前で握ってくれた鮨のほうが美味しく感じるものです。
目の前で繰り広げられる料理人の手さばき、それぞれの素材が料理に仕上がっていく様、その臨場感を体験すると料理の美味しさが増す、カウンターはそういう魔法があるのだと改めて教えていただいたようなお言葉でした。
今年からはな柳でもカウンターのお席を準備しております。
ぜひカウンターの魔法を体験しにいらしてください。
店主:柳谷
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